まぐろ漁船日記⑧(2000年当時)

おじいちゃん

そう確かあれは
8人位で操業する19tの船でした。

けれど私の乗ってた船の船員数は4人
(船長、機関長嫌いで、みんな辞めたあと)

当初、船長、機関長、私の3人だった処に
おじいちゃんが乗船してきました。

かつてのベテラン

何やらベテランの漁師さんらしく
漁師年金がもらえるまで
あと2~3年の間を食い繋ぐ為に、来てました。

しかし、もうお年なので、まあ動けません。
そして、動きません。

ただでさえ人数が少ないので
若い私はフル稼働で

おのずと、おじいちゃんが雑用・御飯の支度などをします。

飯炊きは、新人の仕事

けれど基本、飯の用意はどの世界でも新人の仕事。
おじいちゃんは、それが不服そうで

いつも

「最近の一年生は偉くなったなぁ~」(方言で訛ってる)
「最近の一年生は偉くなったなぁ~」(方言で訛ってる)

と、事あるごとに言ってきます。

しかしまあ、仕方ないので
気にせず仕事をしてたのですが。

ある日。

港に寄港して
船内で束の間の休息をしていると
(もちろん、船長は女の子の店へ行っている)

何か、叫び声のようなものがします。

どこからか、聞こえる声・・

「お~い、誰かぁ~」

「お~~い、誰かぁぁ~~」

不思議に思って外を見てみますが、誰もいません。。

「お~~い..、誰かぁぁぁ~~…」

不審に思いながらも、よくよく耳を凝らして
声のする方を見てみると

何やら下(海)の方から聞こえてきます。
そして、船と岸の隙間をよく見てみると..

おじいちゃん。 落っこちてました!!

海の気温は低く
体温はすぐ下がります。

慌てて棒を差し出し、なんとか這い上がって
一命を取り留め、事なきを得ました。

お礼に

その後、感謝してくる
おじいちゃんから
しきりに命の恩人だという事で

喫茶店で紅茶を1杯(450円)
ご馳走になりました。

お礼の紅茶
命の値段

私の心の中では

(命の値段・・?)

(命の値段・・!?)

(450円・・・??)

命の特売セール!?

という心の声が、浮かんでは消え
浮かんでは消えましたが

当時、若かった私(当時20歳)は、特に気にする事も無く
素直に美味しく頂きました。紅茶大好き。

けれどそれ以来、嫌味を言われる事もなく
おじいちゃんとは、仲良くやれました。

今頃は

今では、あのおじいちゃんも
おそらく年金を貰い、孫とかに囲まれ
悠々自適に隠居生活をしてるのでしょうね。

また海に落ちてなければ。。

命の紅茶

 

コメント

  1. 木村忠啓 より:

    面白い記事ですねえ!普通の人ではなかなか経験できない内容が軽妙なタッチで描かれていて、読み応え十分です。ホストや花屋さんのお話もぜひよろしくお願いします。楽しみにしています。

タイトルとURLをコピーしました